この記事の要点
- 思考記録表は「出来事 → 頭に浮かんだ考え → 気分」を分けて書き出す表です。認知行動療法(CBT)で使われます
- コラム法・自動思考記録表・思考記録法は、ほぼ同じものを指します。呼び名が違うだけで戸惑う必要はありません
- 狙いは考えを「正しく直す」ことではなく、頭の中で混ざっているものを分けて、距離を取ること
- 最初は3列(出来事・考え・気分)だけで十分です。7列は慣れてからで構いません
3列から
いきなり7列にしない
分ける
直すのが目的ではない
0〜100%
気分は強さで書く
思考記録表とは(呼び名がいくつもある)
思考記録表は、あるとき頭に浮かんだ考えと、そのときの気分を、出来事と分けて書き出す表です。認知行動療法(CBT)で使われる基本的な道具のひとつとして知られています。
検索していると、いろいろな呼び名が出てきて混乱しやすいところです。整理しておきます。
呼び名は違っても、やることはだいたい同じです。
このうち「認知再構成法」だけは少し広い言葉で、「出来事・自動思考・気分などを書き出して、考え方の幅を広げていく技法」全体を指します。試験や講座で「記録表に出来事・感情・自動思考・適応的な考えを書いていく技法は何か」と問われたら、答えは認知再構成法(認知再構成)です。
なぜ「書く」のか
頭の中では、出来事・考え・気分の3つが、ひとかたまりになっています。
「返信が来ない、嫌われた、つらい」——これは実際には3つの別々のことですが、体感としては1つの塊です。塊のままだと、大きさも輪郭も分からず、ただ重く感じます。
分けたあとで気づきやすいのは、「返信が来ない」は事実だが、「嫌われた」は解釈にすぎないということです。ここに気づくと、同じ出来事でも受け取り方に幅が出ることがあります。
そして、書くこと自体にも意味があります。頭の中でぐるぐるしている状態は反芻(はんすう)と呼ばれ、いくら回しても結論が出ません。紙の上に出すと、それ以上回らなくなります。
何列で書くのか(3・5・7コラム)
「コラム法」には何列版かのバリエーションがあります。いきなり多い列から始めると、まず続きません。
3コラム
ここから始める
状況 / 自動思考 / 気分。まずはこれだけ。分けるという体験ができれば目的は果たせています。
5コラム
慣れてきたら
3コラムに根拠 / 反証(その考えを裏づける事実・そうとは限らない事実)を足します。
7コラム
本格版
さらに別の見方(適応的思考) / 書いたあとの気分を足します。前後で気分の強さがどう変わったかを見ます。
7コラムが「正解」ではありません。しんどいときほど3列で十分です。書けた回数のほうが、列の多さより効いてきます。
書き方と、記入例
順番に、実際の例で通してみます。
① 状況(出来事)
いつ・どこで・何が起きたかを、事実だけ書きます。カメラに写るものだけ、と考えると分けやすいです。
例:「火曜の夜21時、送ったメッセージに3時間返信がなかった」
ここに「無視された」と書いてしまいがちですが、それは次の欄の内容です。
② 自動思考(頭に浮かんだ考え)
そのとき勝手に浮かんだ言葉を、そのまま書きます。きれいに整える必要はありません。
例:「怒らせたかもしれない」「嫌われた」「また同じことをやった」
③ 気分(と、その強さ)
感情をひとことで書き、強さを0〜100%でつけます。数字をつけるのは、あとで変化が見えるようにするためです。
例:「不安 80% / 落ち込み 60% / 情けなさ 40%」
ここまでで3コラムです。慣れてきたら、続きを足します。
④ 根拠
その考えが正しいと言える、具体的な事実。
例:「前に返信が遅れたとき、少し不機嫌そうだった」
⑤ 反証
そうとは限らない、と言える事実。ここがいちばん難しく、いちばん効く欄です。
例:「今日は仕事が遅いと聞いていた」「先週は5時間後に普通に返ってきた」
⑥ 別の見方(適応的思考)
前向きな言葉に置き換えるのではありません。④と⑤の両方を踏まえた、より事実に近い言い方を1つ作ります。
例:「怒らせた可能性はゼロではないが、単に忙しいだけの可能性のほうが高い。分かるのは明日の返信を見てから」
⑦ 書いたあとの気分
もう一度、強さをつけ直します。
例:「不安 80% → 45% / 落ち込み 60% → 30%」
ゼロにならなくて構いません。少し下がれば十分です。むしろゼロを目指すと、下がらなかったときに「失敗した」という記録になってしまいます。
気分・感情を表す言葉のリスト
「気分の欄に何と書けばいいか分からない」で止まる人はとても多いです。ここは語彙の問題なので、リストから選べば解決します。
- 不安の系統… 不安・心配・緊張・落ち着かない・怖い・焦り
- 落ち込みの系統… 悲しい・むなしい・さみしい・絶望・がっかり・つらい
- 怒りの系統… いらだち・腹立たしい・悔しい・理不尽だ
- 自分に向く系統… 情けない・恥ずかしい・申し訳ない・後悔・自己嫌悪
- その他… 疲れ・気が重い・そわそわ・どうでもいい感じ
ひとつに絞らなくて構いません。「不安60%、悔しさ40%」のように複数書けると、かえって整理が進みます。
詰まりやすいところ
- 状況の欄に解釈が混ざる… 「冷たくされた」は解釈。「返信が3時間なかった」が事実です
- 自動思考が出てこない… 「あのとき、心の中で何と言っていたか」と聞き直すと出やすくなります
- 反証が思いつかない… 「同じ状況の友人に相談されたら、何と言うか」で考えると出ます
- 別の見方が、無理やり前向きになる… 「大丈夫、気にしすぎ」は反証ではなく打ち消しです。しっくり来ないものは効きません
- 気分がまったく下がらない… 出来事が大きすぎるのかもしれません。その場合は書いて分けただけで十分です
やらなくていいこと
毎日書く必要はありません。引っかかった場面を1つ、で十分です。
- 毎日つける
- 7コラムを全部埋める
- 気分を0%まで下げる
- 前向きな考えに書き換える
- きれいな文章にする
考えのぐるぐるが止まらないときは考えるのをやめられない時に、否定的な受け取り方の癖が気になるときはネガティブ思考を変えたい時にもあわせてどうぞ。自分の考え方の癖を先に見ておきたいときは認知の歪み発見チェックが目安になります。
相談を考えたい目安
思考記録表はもともと、専門家と一緒に進めることを想定して作られた道具でもあります。一人でやってうまくいかないのは、やり方が悪いのではなく、一人でやる範囲を超えているというだけのことがあります。つらい記憶を扱う場合はとくに、受診ガイドや相談窓口を見てみてください。